気候変動への対応
近年、世界的に異常気象や大規模な自然災害による被害が甚大化する中、気候変動対応は世界共通の課題となっており、お客様や当行グループにとって事業環境や経営そのものに大きな影響を及ぼす要素になりつつあります。こうした状況を踏まえ、当行グループでは気候変動への対応を重要な経営課題の一つとして位置付け、ガバナンス体制を強化するとともに、気候変動が事業に及ぼす影響の分析や機会・リスクへの適切な対応についての取り組みを進めています。
当行グループでは、2021年4月にTCFD提言に賛同し、同年よりホームページ、統合報告書およびサステナビリティレポートにて、TCFD提言を踏まえた情報を開示しています。2022年度からは移行リスクや物理的リスクにおけるシナリオ分析を実施し、2050年までの影響額の推計値(最大値)を公表しています。今後もリスク管理および情報開示の高度化に取り組んでいきます。
- TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures):2015年に主要国の中央銀行や金融監督当局等が参加する金融安定理事会(FSB)によって設立された、企業に対し気候関連情報開示を促すタスクフォース。
ガバナンス
- 代表取締役頭取を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、気候変動を含むサステナビリティに関連する事項について協議を行い、取締役会に報告・監督を受ける体制を構築しています。
- グループ全体でSDGs/ESGへの取り組みを強化するためにサステナビリティ推進室を設置し、グループ全体の活動を企画・推進しています。
- 本部内にSDGs/ESG推進ワーキンググループを設置し、組織横断的な取組推進を図るとともに、気候変動対応を含むESG課題への具体的な取組状況について、サステナビリティ委員会および取締役会への定期的な報告を実施しています。
- 当行グループ内で気候変動への対応方針等を共有するために、グループ会社サステナビリティ連絡会を実施しています。
戦略
当行グループでは2019年5月に「サステナビリティ宣言」を制定し、持続可能な地域社会の実現に向け、気候変動対応を含む環境保全への対応を重点的に取り組む事項として定めています。気候変動対応を重要な経営課題の一つとして位置付け、機会およびリスクの両面から取り組みを進めています。地域金融機関として商品・サービスの提供を通じ、地域やお客様の気候変動対応を支援するとともに、当行グループの事業活動に伴う環境負荷低減の取り組みを推進していきます。また、気候変動に関連するリスクについて、気候変動による自然災害や異常気象の増加等によってもたらされる物理的な被害に伴うリスク(物理的リスク)と、気候関連の規制強化や脱炭素に向けた技術革新への対応といった脱炭素社会への移行に伴うリスク(移行リスク)を認識しています。
機会
- サステナブルファイナンス・コンサルティングの取り組み
再生可能エネルギー事業等にかかるグリーンファイナンスや脱炭素に向けた移行を促進するトランジションファイナンス、気候変動に対応する事業者を支援するコンサルティングへの取り組みは、当行グループのビジネス機会になると認識しています。 - 再生可能エネルギー発電事業への参入
山陰地方においては、再生可能エネルギーの供給量不足や脱炭素経営への転換の遅れなどの課題を認識する中、当行100%出資により再生可能エネルギー発電事業を営む子会社「ごうぎんエナジー(株)」を設立しました。ごうぎんエナジーでは再生可能エネルギー供給量増加と地産地消の推進を担い、地域脱炭素・カーボンニュートラルの早期実現と再生可能エネルギー利用拡大による地元企業の競争力強化等を通じ、地域と企業の成長戦略につなげていきます。
リスク
気候変動に関連するリスクについて、気候変動に伴う自然災害や異常気象の増加等によってもたらされる物理的な被害に伴うリスク(物理的リスク)と、気候関連の規制強化や脱炭素技術への対応といった脱炭素社会への移行に伴うリスク(移行リスク)を認識しています。
- 物理的リスク
気候変動による自然災害等の発生により、資産や事業活動に影響を受ける投融資先に対する信用リスクの増大や、当行グループの営業店舗等の損壊によるオペレーショナルリスクを想定しています。
[物理的リスクの例]
物理的リスク | |
---|---|
急性的 | ・台風や洪水などの極端な天候事象による被害の増加 |
慢性的 | ・降水パターンの変化と天候パターンの極端な変動 ・上昇する平均気温 ・海面上昇 |
- 移行リスク
気候関連の規制強化や脱炭素に向けた技術革新の進展等により、事業活動に影響を受ける投融資先に対する信用リスクの増大等を想定しています。
[移行リスクの例]
移行リスク | |
---|---|
政策と法規制 | ・温室効果ガス排出価格(炭素税)の上昇 ・既存の製品およびサービスに関する規制 ・訴訟 |
テクノロジー | ・温室効果ガス排出量の少ない製品やサービスへの転換 ・新技術への投資の失敗 ・低排出技術への移行コスト |
市場 | ・顧客行動の変化 ・原材料価格の上昇 |
評判 | ・消費者の嗜好の変化 ・特定の多排出セクターへの非難 ・ステークホルダーの関心の高まりやネガティブなフィードバック |
- シナリオ分析
当行では、気候変動が将来にわたって当行のポートフォリオに与える影響を把握するために、物理的リスクと移行リスクのそれぞれについて2022年度よりシナリオ分析を実施しています。分析にあたっては、気候変動に関するさまざまな状況を想定し、計画の柔軟性や戦略のレジリエンスを高めるべく、1.5℃のシナリオを含む複数のシナリオを用いて分析しています。
2023年度は、前年度実施した分析におけるリスク事象に加え、次に記載するリスク事象を追加しました。物理的リスクにおいては、与信先の事業停止等(売上減少)による財務悪化リスクを、移行リスクにおいては、リスクの高いセクターとして「電力」「石油」「ガス」を選定し、炭素関連資産の座礁リスクや化石/非化石燃料の価格・需要の変化等による影響を分析しています。2023年度に分析を行った結果は以下の通りです。
| 物理的リスク
リスク事象 | ①水害による担保物件(建物)の毀損 ②水害による与信先の事業停止(売上減少)に伴う財務悪化 |
---|---|
分析対象 | ①国内与信取引先 ②山陰両県に拠点を有する国内与信取引先(法人) |
シナリオ | IPCC(気候変動に関する政府間パネル) ・RCP1.9(1.5℃シナリオ) ・RCP2.6(2.0℃シナリオ) ・RCP8.5(4.0℃シナリオ) |
分析期間 | 2050年まで |
リスク指標 | 想定される信用コスト増加額 |
リスク量 | 最大48億円 |
| 移行リスク
リスク事象 | ①脱炭素社会移行に伴う資産の毀損や売上減少・コスト増加等による与信先の財務悪化 ②炭素税導入による与信先の財務悪化 |
---|---|
分析対象 | ①「電力」「石油」「ガス」セクターの特定先 ②国内与信取引先(法人) |
シナリオ | NGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク) ・Net Zero 2050 ・Below2℃ ・Current Policies |
分析期間 | 2050年まで |
リスク指標 | 想定される信用コスト増加額 |
リスク量 | 最大70億円 |
- 炭素関連資産(貸出金残高)の状況
当行の2023年3月末における貸出金残高に占める炭素関連資産の割合は以下の通りです。
炭素関連セクター | エネルギー | 運輸 | 素材・建築物 | 農業・食糧・林業製品 |
---|---|---|---|---|
割合 | 2.4% | 8.4% | 14.7% | 4.8% |
※再生可能エネルギー事業への貸出金は除く。
リスク管理
- 気候変動を含む環境への取り組みを経営の重要課題のひとつとして認識し、気候変動への対応方針を含む「サステナビリティ宣言を踏まえた投融資方針」を策定しています。
- 気候変動に起因する物理的リスクや移行リスクが、中長期にわたり当行グループの事業内容・戦略・財務内容に影響を与えることを認識しています。当行グループでは、リスク管理を経営の安定性・健全性を維持するための最重要課題として位置付け、取締役会を頂点とするリスク管理態勢を構築していますが、今後、気候関連リスクについても、統合的リスク管理のプロセスへの組み入れを検討してまいります。
指標と目標
- 温室効果ガス排出量の削減
指標 | 目標 | 2022年度実績 | |
---|---|---|---|
温室効果ガス 排出量(連結) |
Scope1、2 | 2023年度に 2013年度比50%削減 |
【Scope1、2】 7,620t-CO2 (2013年度比▲38.8%) |
2030年度までに ネットゼロ |
|||
Scope1、2、3 | 2050年度までに ネットゼロ |
[温室効果ガス(GHG)排出量・エネルギー使用量・電力使用量(連結)]
算定項目 | 単位 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | |
---|---|---|---|---|---|
Scope1 | 直接排出 | t-CO2 | 1,512 | 1,483 | 1,396 |
Scope2 | 間接排出 | 7,480 | 6,623 | 6,224 | |
Scope1,2の合計 | - | 8,992 | 8,106 | 7,620 | |
Scope3 | Scope1,2以外の間接排出 | 10,775 | 12,822 | 2,304,872 | |
Scope1,2,3の合計 | - | 19,767 | 20,928 | 2,312,492 | |
エネルギー使用量合計 | 原油換算 | kL | 3,959 | 3,838 | 3,595 |
エネルギー使用量合計 | 熱量 | GJ | 153,423 | 148,752 | 139,383 |
電力使用量 | - | 千kWh | 12,917 | 12,511 | 11,683 |
[温室効果ガス(GHG)排出量・エネルギー使用量・電力使用量(単体)]
算定項目 | 単位 | 単位 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | |
---|---|---|---|---|---|---|
Scope1 | 直接排出 | t-CO2 | 1,457 | 1,424 | 1,346 | |
Scope2 | 間接排出 | 7,229 | 6,361 | 6,001 | ||
Scope1,2の合計 | - | 8,686 | 7,785 | 7,347 | ||
Scope3 | Scope1,2以外の間接排出 | 10,517 | 11,130 | 2,303,980 | ||
Scope1,2,3の合計 | - | 19,203 | 18,915 | 2,311,327 | ||
エネルギー使用量合計 | 原油換算 | kL | 3,836 | 3,717 | 3,470 | |
エネルギー使用量合計 | 熱量 | GJ | 148,669 | 144,051 | 134,522 | |
電力使用量 | - | 千kWh | 12,522 | 12,099 | 11,271 |
[温室効果ガス(GHG)排出量(Scope3)(連結)]
(単位:t‐CO2)
算定項目 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | ||
---|---|---|---|---|---|
Scope3 | カテゴリ1 | 購入した製品・サービス | 4,331 | 3,459 | 3,398 |
カテゴリ2 | 資本財 | 2,153 | 5,022 | 7,127 | |
カテゴリ3 | Scope1,2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動 | 1,191 | 1,154 | 1,134 | |
カテゴリ4 | 輸送・配送(上流) | 1,518 | 1,790 | 1,641 | |
カテゴリ5 | 事業から出る廃棄物 | 483 | 284 | 287 | |
カテゴリ6※1 | 出張 | 246 | 250 | 314 | |
カテゴリ7※1 | 通勤 | 853 | 863 | 971 | |
カテゴリ8※2 | リース資産(上流) | 該当なし | 該当なし | 該当なし | |
カテゴリ9※2 | 輸送・配送(下流) | ||||
カテゴリ10※2 | 販売した製品の加工 | ||||
カテゴリ11※2 | 販売した製品の使用 | ||||
カテゴリ12※2 | 販売した製品の廃棄 | ||||
カテゴリ13※3 | リース資産(下流) | 0 | 0 | 0 | |
カテゴリ14※2 | フランチャイズ | 該当なし | 該当なし | 該当なし | |
カテゴリ15 | 投融資 | 未算定 | 未算定 | 2,290,000 | |
合計 | 10,775 | 12,822 | 2,304,872 |
※1:カテゴリ6、7の2020年度、2021年度は単体。
※2:カテゴリ8~12および14は業務上該当なし。
※3:カテゴリ13について、ごうぎんリース㈱は集計対象外。
・Scope3の算定方法は、「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドラインVer.2.5(環境省、経済産業省)」を参考にしました。
・Scope3の算定にあたり、排出係数は「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベースVer.3.3(環境省、経済産業省)」を使用しました。
- 投融資ポートフォリオのGHG排出量の試算(Scope3カテゴリ15)
当行では、金融機関におけるGHG排出量のうち、投融資を通じた間接的な排出が大きな割合を占めることから、これらを試算・算定し、モニタリングやエンゲージメントによる削減への取り組みを進めることが重要であると認識しています。 こうした取り組みを進めるため、当行は2022年6月に投融資ポートフォリオのGHG排出量の計測・開示にかかる取り組みを進める国際的なイニシアチブであるPCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)に加盟し、今般、当行として初めて、PCAFの定める基準等に基づき、事業性融資及び上場株式・社債について、GHG排出量(Financed Emissions)を試算しました。 今後、本試算結果をエンゲージメントを通じたお取引先の脱炭素化の促進に活用していくことを検討してまいります。また、試算結果については、投融資先による排出量算定・開示の拡大、及び算定基準の変更、業種分類の変更等により、今後変更する可能性があります。
-
試算結果
(単位:千t‐CO2)
業種 | 資産区分別 | 合計 | |
---|---|---|---|
事業性融資 | 上場株式・ 社債 |
||
石油・ガス・石炭 | 167 | 2 | 169 |
電力・ユーティリティ | 684 | 35 | 719 |
空運 | 24 | - | 24 |
海運 | 350 | 0 | 350 |
陸運 | 32 | 0 | 32 |
自動車 | 15 | 1 | 16 |
金属・鉱業 | 268 | 10 | 278 |
化学 | 90 | 3 | 93 |
建築資材・資本財 | 60 | 0 | 60 |
不動産管理・開発 | 11 | 0 | 11 |
飲料・食品 | 77 | 2 | 78 |
農業 | 20 | - | 20 |
製紙・林業 | 124 | 2 | 126 |
その他 | 300 | 14 | 314 |
合計 | 2,221 | 70 | 2,290 |
- 試算条件等
対象アセット | 事業性融資及び上場株式・社債 |
---|---|
業種 | TCFD提言における炭素関連資産(4セクター13業種)及びその他 |
方法 | ●PCAFスタンダードに基づく方法等により試算。 ●GHG排出量=投融資先の排出量※×投融資先における当行の投融資割合 ※データが取得できない先は、PCAFデータベースから引用した地域・セクター別の売上あたり排出係数を使用(トップダウン分析)。開示・公表している一部の先については、公表値を使用(ボトムアップ分析)。 |
データクオリティスコア | 3.69 |
基準日 | ●投融資残高:2023年3月末 ●融資先財務データ:2023年3月末時点で当行が保有する最新データ |
カバー率 | 88.0% |
- サステナブルファイナンス
指標:サステナブルファイナンス累計実行額
目標:2021年度~2030年度 1.5兆円(うち環境分野 5,000億円)
実績:2021年度~2022年度 2,717億円(うち環境分野 1,093億円)
[サステナブルファイナンスの実績内訳]
(億円)
2021年度 実績 |
2022年度 実績 |
累計 | |||
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サステナブルファイナンス | 1,277 | 1,440 | 2,717 | ||
環境分野 | 455 | 638 | 1,093 | ||
うち再生可能エネルギー事業向け | 262 | 252 | 514 | ||
社会分野 | 822 | 802 | 1,624 |
[サステナブルファイナンスの定義]
サステナブルファイナンスは、各種国際原則や政府の指針・ガイドラインにおける対象事業・資金使途の例等に
合致する環境課題・社会課題の解決に資する投融資を対象範囲としています。
分野 | 事業 |
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環境分野 | 気候変動緩和と適応および環境配慮に資する事業 例)再生可能エネルギー事業、省エネルギー事業、脱炭素・低炭素事業等 |
社会分野 | 地域経済活性化および持続可能な地域社会に資する事業 例)基本的インフラ整備、必要不可欠なサービス、雇用創出等 |