特別対談~持続可能な地域社会の実現に向けて

東京大学未来ビジョン研究センター教授 髙村 ゆかり氏×山崎 徹頭取 特別対談

東京大学未来ビジョン研究センター教授 髙村 ゆかり氏×山崎 徹頭取 特別対談

【写真左】東京大学未来ビジョン研究センター教授 髙村ゆかり氏

専門は国際法学・環境法学。京都大学法学部卒業。一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。龍谷大学教授、名古屋大学大学院教授などを経て、2019年4月より現職。中央環境審議会会長、再生可能エネルギー買取制度調達価格等算定委員会委員長、アジア開発銀行の気候変動と持続可能な発展に関する諮問グループ委員、国連大学サステイナビリティ高等研究所評議員なども務める。島根県安来市広瀬町出身。                          

【写真左】東京大学未来ビジョン研究センター教授 髙村ゆかり氏

専門は国際法学・環境法学。京都大学法学部卒業。一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。龍谷大学教授、名古屋大学大学院教授などを経て、2019年4月より現職。中央環境審議会会長、再生可能エネルギー買取制度調達価格等算定委員会委員長、アジア開発銀行の気候変動と持続可能な発展に関する諮問グループ委員、国連大学サステイナビリティ高等研究所評議員なども務める。島根県安来市広瀬町出身。                                   

持続可能な地域社会の実現に向けて ~地域のサステナビリティ課題解決に向けた取り組みと金融機関が果たす役割~

地域においても気候変動対応をはじめとするさまざまなサステナビリティへの取り組みが求められています。
このたび、島根県のご出身で、現在、中央環境審議会の会長等の要職を務めていらっしゃる東京大学未来ビジョン研究センター教授の髙村ゆかり氏をお招きし、山崎徹頭取と「地域のサステナビリティ課題解決に向けた取り組みと金融機関が果たす役割」をテーマに対談いただきました。

サステナビリティの潮流

昨今、国際的な基準やルール作りが進み、企業経営においてサステナビリティの取り組みが強く求められています。この動きをどう捉えていらっしゃいますか。

髙村  気候変動、温暖化の問題が発端となり、このままの私たちの経済、社会の在り方が続くと、その基盤である地球環境、地球自身が維持できなくなる、そうした認識がまず背景にあると思います。企業は、さまざまな環境を利用して事業を営んでいると同時に、事業を通じてこうした問題にソリューションを提供できます。こうした企業の社会の中での役割、取り組みや価値を金融市場に取り込んでいく流れが、企業経営においてサステナビリティの取り組みが社会的に求められ、かつ金融市場でも評価していく動きを強めていると思います。
頭取 金融市場で評価することによって、脱炭素化を進めていこうとするような流れがあるのですね。
髙村 政策の一つのアプローチとして金融機関の役割を非常に重視していて、サステナビリティ経営を促進する金融の役割を強化し、脱炭素化を推し進めていこうとする流れがあるのは間違いないと思います。企業、自治体、金融機関などが主体となって連携してこの問題に対処しようと危機感を持って動き出していること、また、金融システムの安定化の観点から金融機関自身の内発的な動機もあるように思います。このまま気候変動の影響が悪化していけば金融市場そのものにも大変不安定な要因となりうること、あるいは、脱炭素に向けた社会の変化についていけない企業の企業価値が下がることが懸念されます。気候変動や生物多様性の保全など社会のサステナビリティは、私たちの社会や経済の大変重要な基盤を持続可能に維持し、守りながら、この社会がより持続可能な方向に発展していくうえで非常に重要な動きだと思っています。
頭取 欧州の銀行は、業種ごとのポートフォリオのGHGを算出し、さらに2030年の削減目標を業種ごとに設定しているようですね。
髙村 銀行が投融資先の排出量をしっかり把握して、しかも欧州のケースでは2030年の業種ごとに目標を持って、CO₂の観点での2030年の投融資のポートフォリオのイメージを作っているのですね。
頭取 本当に先進的な取り組みだと思います。一方で、昨年ドイツで開催されたG7サミットにおいて、日本では地域金融機関が中小企業のカーボンニュートラルを率先していることに欧州の中央銀行がとても興味を示したという話を聞き、先進的な地域である欧州においても中小企業の脱炭素化をどう進めていくかは非常に大きな課題なのだと思いました。サステナビリティへの意識を高めていくことが大切だと感じています。

金融機関が果たすべき役割

地域や地域の事業者が脱炭素の取り組みを進めていくうえでの、金融機関が果たすべき役割について、考えをお聞かせください。

頭取 当行は、昨年銀行で初めて発電子会社「ごうぎんエナジー㈱」を設立しました。本来、誰かが事業リスクをとったものにファイナンスするのが銀行の役割ですが、当行自らが事業リスクをとり、地域のみなさんと一緒にカーボンニュートラルを進めています。しかし、案件としてはたくさん挙がってきているのですが、ほとんどが今足踏みしています。ネックとなっているのは、やはり採算で、資材コストの上昇に加え、電力会社からエネルギーを調達した方が安く、価格だけの動機では進展しにくい状況です。また、それほど大きくはないとはいえ10年以上の事業リスクをとってもらうことになるので、想定以上に苦戦しています。話を進めていくうえでは、このままではサステナブルでないこと、その責任を我々も負っていて果たしていかないといけないという意識をまず共有することが大事だと改めて感じています。地域全体の意識を底上げしていくことも当行の大事な役割の一つであり、みんなで地域の持続性を高め、地域全体がよくなって魅力が高まるような取り組みをしていきたいと思っています。
髙村 地域における地域金融の役割はすごく重要だと思っています。地域金融の取り組みが社会全体のサステナビリティにどう関わるか、どうインパクトを与えられるかはもちろん大事ですが、同時に、地域金融の事業の基盤として、地域がちゃんと成り立って回っていかないといけないという側面を強く持っています。山陰は少子高齢化の影響が先駆けて到来している地域です。地域がうまくまわっていくことが人口の流出を抑えることになり、次の地域づくりを築いていく基盤になると思います。また、例えば、再生可能エネルギーを導入したいと考えても、実際に事業化し、資金を充てることができないことが世界的に共通の課題となっています。ごうぎんエナジー㈱は、知恵も情報も持っていて、事業化もできて、資金も手当てできます。地域の課題を解決していくうえで、地域金融が持っている非常に大きな強みだと思います。
頭取 先進的な取り組みについてのノウハウがある方たちとのアライアンスにより、地域のカーボンニュートラルを進めていきたいと思っています。この取り組みがうまくいけば、他の地域でも展開していただけると期待していて、当行が取り組んで失敗したことやできてうまくいったことを他の金融機関とも共有していきたいと思っています。

地域におけるカーボンニュートラルの取り組み

地域においても、カーボンニュートラルや脱炭素に向けた動きが徐々に広がっています。地域全体でさらにこの動きを加速させていくために、何が必要であるとお考えですか。

頭取 環境省の脱炭素先行地域の取り組みに、当行は共同提案者としてプランを作る立場で参加し、これまでに3か所選定いただきました。例えば、鳥取市のプランの一つは、住宅団地全体の屋根に太陽光パネルを設置するというもので、まさに地域全体で取り組むプランで、自治体と一緒に取り組む価値があると思っています。
髙村 とてもいいアイデアだと思います。ごうぎんは第1回から参加されていて、おそらく、地域金融が一緒に取り組むケースの先駆けだったと思います。サプライチェーンの担い手も脱炭素の取り組みを求められるようになってきており、地域の企業が取引先として選ばれ続けるためにも、企業それぞれの脱炭素の取り組みも大事ですが、地域の脱炭素化はとても重要だと思います。
頭取 行内でもユニークなアイデアがいろいろ出てきます。山陰はいろいろなインフラで遅れている中、脱炭素はまだ始まったところで勝ち抜ける可能性もあり、まさに先行地域で名乗りを上げることは大事だと思っています。
髙村 J-クレジットにも積極的に取り組んでおられますね。
頭取 直近ではJ-クレジット販売支援実績の累計が10,000t‐CO₂を超えました。金融機関の中では一番多く取り組んでいて、この取り組みは内閣府や環境省から表彰いただいています。今、当行が取り組んでいるのは森林由来のJ‐クレジットですが、カーボン・クレジット市場が始まれば、それ以外のものも取引の対象になるので、仲介ノウハウを蓄積して、脱炭素を地域全体で行う取り組みにつなげたいと考えています。
髙村 鳥取県日南町の取り組みは、J-クレジットの購入資金を若手林業者の訓練など地元に還元できるようにされていますね。
頭取 よい循環だと思っています。今後もこの取り組みを広げていきたいと思います。

サステナビリティ観点から、地域特性を踏まえた山陰地域の強みや課題について、考えをお聞かせください。

髙村 本当にいろいろなことに取り組んでおられて、地域の中でしっかり、脱炭素、気候変動対策、サステナビリティを、事業を通じて地域がよくなっていく循環を作られようとしていると思います。
頭取 山陰は課題先進地域ですし、経済基盤も弱いですから、地域の課題はできるだけ地域で解決することに貢献しようという思いが当行のベースです。青少年の教育活動、障がい者の自立支援などにも長年取り組んでいます。
髙村 社会課題は多様です。より包摂的な社会課題に、企業、金融機関がしっかり取り組んでいくことが求められています。自分たちの地域がどのような課題を抱えていて、どうなりたいかを企業自身が考え、金融機関はそれを支援するとともに自分たちも考えていかないといけません。山陰の一つの大きな強みは、森林などのバイオマスがとても豊かなことで、脱炭素化においてはすごく大きなチャンスを持っていると言えると思います。
頭取 山陰でもっと取り組んでいきたいと思っています。山陰の山、その森林組合で供給できる量の、比較的、規模や投資額の小さいバイオマスがよいと考えています。
髙村 発電設備のあるコミュニティの中で調達ができる規模でのバイオマス発電は、地域の資源をうまく活用して利益を生み出すよい仕組みだと思います。
頭取 地域に対しても、例えば、燃料として買い取るので林業をやりましょうという発信ができます。地元の人にとっても安定的に資金が入ってくるとなれば、森に入って手を加えるきっかけになると思います。山陰は山林県であり、可能性を感じています。
髙村 とても期待します。山陰はすごい宝を持っていると思います。

ごうぎんに対する期待や提言があれば、お聞かせください。

髙村 地域におけるごうぎんの役割はとても大きいと思っています。世界、日本の、すごく早く変化している動きをしっかり把握して、情報が必要な地域の企業や自治体に伝え、地域にとって必要な地域づくりについて提案する地域コンサルタントの役割を、いろいろなアライアンスや強みを生かして続けていただくことを期待します。また、ごうぎんエナジー㈱にエールを送ります。気候変動など大きな課題については、こうありたいという政策はずいぶん出てきていますが、政策を実現する人と資金をうまく組み合わせて事業化するノウハウが地域にまだないケースが多く、ごうぎんエナジー㈱をはじめとしたチャレンジをぜひ続けていただきたいです。
頭取 その期待や負託にできるだけ応えていきたいと思っています。こうありたいという理想や思いがないと実現できないことだと思います。もちろん事業を継続させるために、トータルでは利益を上げていけるよういろいろな工夫をして成長していかないといけませんが、一方で、社会課題にしっかり向き合っていきたいと思っています。そして、これまでずっと続けてきたさまざまな取り組みを積極的に発信していきたいと思います。当行の取り組みを伝えることも大事な役割の一つだと思っています。
髙村 すごく大事ですね。地域コミュニティの一員として、金融がかつてなく期待されていると思います。山陰の人たちを元気にする、山陰の人たちにとって幸せな地域を作っていただきたいと思います。